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2006.01.02

『博士の愛した数式』 小川洋子著 by 頑固な文庫読者

小川洋子著: 博士の愛した数式

 数字や数式を暖かく感じるなんてことが、あるなんて。

 80分しか記憶が持たない博士と、家政婦の私とその息子。毎日が新しい一日で、しかし切なさが堆積していくような重たさを持っている。博士の中から飛びだす数字の意味に、不思議さに、数式の美しさに、それを忘れさせてくれる力がある。

 数字の意味や、数式の表す内容は余計な解釈を挟む余地はない。曖昧さを廃しているからこそ純粋で、それを愛する博士と私と息子の関係は不純物が削ぎ落とされていく。それ故に発生する出来事も納得できる。

 生きていくために何が必要なのか。
 何が捨てられて、何を残しておかなければならないのか。
 毎日の生活の中で、滅多なことでは考えないことである。

 博士の生活では実感はないのかもしれないけど、周りの人々がそれに気付き、サポートすることで実現しているのではないだろうか。
 数字や数式の持つ普遍性が、人生のそれと重なる部分を照らしているようだ。

 記憶が人生の豊かさを作り出していることは確かだろうけど、それだけではない何かがある。持つ者が知ることは多い。持たざる者にとっても何かしら充実した時間を過ごすことが出来る。たとえ、消えてしまうことが分かっているとしても。

 何とも美しく、悲しい物語。

 さて、1点どうしても気になる部分がある。物語の根幹に関わる80分しか持たない記憶。読み落としているのかもしれないが、80分間の記憶が、80分ごとなのか、最新の80分なのかがはっきりしていない。というのも、最新の80分ということであれば、その80分間の出来事(記憶)の継続性があれば、物語の中のいくつかの出来事は発生しないかもしれない。
 つまり80分の最後の1分に家政婦の私や息子について思考することがあれば、引き続き80分の中に記憶として残るのではないかと思ったりするのである。
 まぁここらへんは余計なお世話だと言ってしまえば、それまでですけれども。理系寄りの思考回路だからかなぁ。

『博士の愛した数式』
小川洋子著
新潮文庫 ISBN4-10-121523-5
本体438円+税

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コメント

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

この本って、今月末から封切りになる映画の原作ですよね。
http://hakase-movie.com/
80分しか記憶がもたないってのは、自分も案外そうだったりして。でも都合のいいことは覚えてますので、意味が違いますね(凡人ですので)。

投稿: nasubi | 2006.01.03 11:46

nasubiさん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

そうです。今TVでもCM打ってますね。
博士役は寺尾聰氏だそうですが、「半落ち」でも出てましたね。他にいなかったんでしょうか。(別に悪いと言っているわけでなくて(汗))

80分はともかく、さっき食べた晩飯のラインナップを忘れてしまわないかと毎日心配なあっしでございます(爆)

投稿: みそがい | 2006.01.03 20:28

女性側に主導権のある「天才柳沢教授の生活」かなという気がしました。ちょっと変わった世界に生きているけど、知的な人を相手にする物語、ってことで。

80分の記憶の点はみそがいさんと同様、どこが区切りなのかと疑問に思いました。
野球観戦のとき、1回表先頭打者の記憶はどこで消えるのかと。そこで他の二人と話がずれることなく普通に観戦が終了したのにちょっと肩透かし感を。

博士のキャラ付けとしては80分記憶じゃなくて別の仕掛けだったほうがいいんじゃないかなー。

投稿: 益子培人 | 2006.01.10 00:11

まいどです。
それ漫画ですよね。読んだこと無いのですが、似ているんでしょうか?

さて80分の記憶については、もっと綿密に詳細を詰めておいたほうが良かったかもね。

やはり連続した記憶はとぎれないもの、だったのかもしれません。

でも、別の仕掛けって、何か良いのありますかねぇ。キーワードを聞いたら記憶が無くなるとか(笑)

投稿: みそがい | 2006.01.13 23:46

いやいや、博士を俗物や困った人にさせないための設定であれば、記憶障害でなくともいいわけです。
でも実在する障害だと生々しくなって、この小説の淡々とした味わいがなくなるし、頭をひねらなければなりませんね。

投稿: 益子培人 | 2006.01.14 23:16

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